ナベノハウス活動記録

熊本コモンハウス「ナベノハウス(鍋乃大厦)」@KNabezanmaiの活動記録です

クリスマス企画『基督抹殺論』読書会の記録

予は今拘へられて東京監獄の一室に在り――

基督抹殺論をどう受け止めるか

大逆事件で死刑となった幸徳秋水の遺稿をご存知でしょうか。その名も『基督抹殺論』。秋水と言えば有名な社会主義者で、中江兆民に師事し、『帝国主義』や『社会主義神髄』などを著したジャーナリストです。それが一体、死を覚悟した獄中で何を思ってキリスト教に喧嘩を吹っ掛けたのか。『基督抹殺論』の際物ぶりは論壇を当惑させ、今に至るまでその評価は宙づりのままと言えるでしょう。

行論は力強く進みます。キリストは聖書に証立てられた史的存在なのか。否、聖書に書かれていることはすべて虚偽であり、キリストなる者は存在しない。生殖器と太陽の信仰に端を発し、ギリシア哲学を取り入れて抽象化された古代宗教が、その教会権力の確立に伴って創造した「キャラクター」がキリストなのだ。こうして誕生の秘密を暴露し権威を失墜させることが「抹殺」の本義です。

史的唯物論は、宗教を含む社会制度は経済という下部構造に規定された上部構造だと考えます。宗教を理解するには、教義そのものではなく、その教義がどのような利害関係のもとに成立しているのかを問えばよい。下部構造を明らかにすれば、宗教だろうが国家だろうがその「下心」はろくでもないものだ。こうした、宗教に対する「センスのない」理解が本書には横溢しています。

秋水の意図を測りかねた論壇がひねり出した一つの解釈が、本書は天皇制批判の隠喩だ、というものです。基督抹殺論と同じ分析方法は、明治新政府によって急造された近代天皇制にこそよく当てはまるでしょう。歴史上の人物でない神武天皇の即位をもって「皇紀」を定め、天皇を神格化し御真影に跪拝させ、国体明徴声明で天皇こそ唯一の主権と垂訓する、まさにその天皇制への「大逆」として刑死した秋水は、キリストに仮託して天皇の社会的抹殺を目論んだ。もちろん、天皇を示す一文一句たりとも本書の中に書き込まれてはいません。しかし、獄中の秋水が天皇制のことを考えない日はなかったでしょう。その周到な排除にこそ、描かれなかった天皇制の輪郭が跡付けられているというわけです。

そのような読み方ができることは否定しません。しかし、本書からくみ取れるのはそうしたピンポイントの批判ではなく、秋水の世界観とするべきでしょう。そこにあるのは、実証科学で蒙を啓き不合理な前近代的遺物を排して来るべき社会を建設しようという、ナイーヴな近代思想に他なりません。その実現のためには、人々がキリスト教のふりまく言説を批判し一蹴するリテラシーを備えていることが必要条件だと秋水は考えたのだと思います。

基督抹殺論には何が書いてあるか

秋水の主張は、よくこれだけの資料を集めたものだと感嘆しますが、全体的に牽強付会で、キリスト教とは何かを論じる箇所はほとんどこじつけのとんでも理論になっています。少しだけ、内容の批判的な紹介をしておきましょう。

聖書信ずべき乎

「聖書信ずべき乎」では、マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネによる四福音書が伝記としてどこまで信用できるかが問われています。それらが信用に値しないとされる根拠は、

・四福音書が記載する出来事を照らし合わせると矛盾が多い

・キリストがいつ生まれ、いつ死んだのかがわからない(クリスマスは、冬至にあわせてキリストの生誕を祝う日として、キリスト教を国教化した古代ローマで成立しました)

福音書はキリストの死後100年以上たった2世紀ごろ成立した

・多くの経典から都合のいいものが選別された

・聖書の内容は教会の利益のために何度も改作された

といったもので、これらはおおむね事実と言っていいと思います。ただ、これは「信用できない」というだけで、聖書に事実の記載はなくすべて創作であると結論付けることはできないでしょう。また、秋水の論述はすべて研究者の書物や百科事典からの引用に基づいていて、自身で聖書を読解し検討したわけではないことにも注意が必要です。

聖書以外の証跡

「聖書以外の証跡」では、ギリシャ、ローマの歴史家がキリストに言及していないこと、ユダヤ人歴史家ヨセフスの記述も簡素であり、キリストの言行の記録を聖書以外の資料から跡付けることができないことを指摘しています。

ここまでの秋水の行論は、結論を盛っているところを除けば、それなりに妥当な議論と言えるでしょう。

基督教の起源

「基督教の起源」では、神が人を作るのではなく人が神を作るのだ、と切り出し、宗教とはいきなり飛びぬけた個人の霊感によって創始されるのではなく、既存の様々な文化伝統を取り込んで形成されるのだ、と続きます。しかし、キリスト教の由来として秋水が提示するのは、「一は即ち太陽崇拝、他は即ち生殖器崇拝」だというのです。特に、十字架が男性生殖器をかたどったものであると述べるくだりは開いた口が塞がらないというか、秋水の「センス」が存分に発揮されているようです。

後半では、キリストと同時代に活躍したユダヤ人哲学者フィロンの影響を指摘しています。フィロンプラトン哲学と旧約聖書を調和させようと努力し、教義の解釈にロゴスやイデアの概念を導入しました。これがユダヤ教よりも初期キリスト教徒に受け入れられ、霊魂不滅や唯一神といった発想を生んだ、という説もあるようです。だからキリスト教の教義にイエス・キリスト個人に由来するオリジナリティはない、というのが秋水の主張です。

秋水はこの章を「真に基督教の起源の由来とその信仰の何物なるかを解しなば、彼等の大半は其信仰を失墜すべし」と結んでいます。まさに啓蒙思想の権化というか、正しい知識を得れば正しい結論に達するという信念が秋水の社会運動を支えていたのだと思わされます。

初期基督教の道徳

「初期基督教の道徳」では、その現状肯定的な性格が糾弾されます。「新訳書の教訓が、如何に霊に偏して肉を軽んじ、望みを死後に懸けて現在の事に冷淡ならしめ、無抵抗を美徳とし、貧窮を幸福とし、神の奴隷たるを誇りて、人類の勇気と自尊心を阻喪せしむるか」と言って、支配階級に都合のいい道徳を捨てよと諭すところには、秋水の動機の一端が垣間見えます。もちろんキリスト教には支配権力への抵抗の歴史もあり、秋水の見方は一面的に過ぎると思えますが。

その後は、キリスト教道徳にも評価できるところはあるが、それは仏教やゾロアスター教孔子孟子老荘思想でも説くところであり、キリスト教だけが特段道徳的に秀でているわけではない、そうした道徳がキリスト教を特別なものとするわけではない、と言います。ここまではご愛敬ですが、返す刀で初期キリスト教団がいかに不道徳で尊敬に値しないかを縷々書き綴るという、個人的には大変鼻白むパートが続きます。

基督教の実体――クリスマスとは何か

「基督教の実体」では、多くの知識人が、処女懐胎という聖書の神話的記述を事実と認めていない(当然ですが)として、文献を列挙しています。

ここからが面白いのですが、それではなぜ12月25日にキリストの生誕を祝うのか。そもそも、ヨーロッパ各地には、夏至冬至を祝うお祭りが多数存在します。そして、冬至は太陽の復活が始まる日であり、占星術では処女宮に当たる(と秋水は言いますが、乙女座を太陽が通るのは8月末~9月にかけてです)ので、キリストの生誕を祝うのに適切だというのです。これは、キリスト教が太陽信仰に由来する傍証だと秋水は論じています。

クリスマスがキリスト教の中でも微妙な位置づけであることは、レヴィストロースの『火あぶりにされたサンタクロース』で活写されています。これは、第二次世界大戦アメリカ文化の流入で人気となったサンタクロースのイコンにカトリックの司祭が反発し、「異教のもの」であるサンタクロース人形を断罪し火あぶりにした(そして世間から轟轟たる批判を浴びた)、フランスで実際に起こった事件を題材に、クリスマス祭の文化人類学的起源を考察する論文です。

www.kadokawa.co.jp

結論

こうして、イエス・キリストは史的人物ではなく、その教義に独創性はなく、その起源は古代神話に求められる、と結論されます。

基督教徒が基督を以て史的人物となし、其伝記を以て史的事実となすは、迷妄なり、虚偽なり。迷妄は進歩を妨げ、虚偽は世道を害す、断じてこれを許すべからず。即ち彼が仮面を奪い、扮粧を剥ぎ、其真相事実を暴露し、之を世界歴史の上より抹殺し去るとを宣言す。

ちなみに、イエスという名前はヘブライ語のイェホシュア(神は救い)がギリシャ語に転写され日本に伝わる過程で変化したものですが、秋水はこれを固有名ではなく抽象的な救世主を意味する単語だ、と考えています。実際には、イェホシュアは当時よくある名前で、例えばヨセフスの『ユダヤ戦記』には20人くらいのイェホシュアが登場するようです。秋水が否定する個人としてのイエス・キリスト(史的イエス)についても研究の蓄積はあり、『基督抹殺論』はそれを意図的に無視していると言ってよいでしょう。

最後に読書案内です。

基督抹殺論はGoogle Booksで読めます。

基督抹殺論 - 幸徳秋水 - Google ブックス

史的イエスについてはこちら↓

近代聖書学(高等批評)についてはこちら↓

それでは、よき年越しを!

「実家」の社会的構築

この記事は、2023年サークルクラッシュ同好会アドベントカレンダー2日目の記事です。

adventar.org

12月から、私は熊本を離れ、東京で仕事を始めた。

東京は恐ろしい都市だ。前日にインフルの予防接種を受けたのに、当日は体調不良で無理を押しての出勤。朝の通勤は満員電車。そしてどこを見回しても人、人、人。1日で東京が嫌いになってしまった。

私は今、このブログを「実家」であるナベノハウスで書いている。

私はずっと実家が嫌いだった。大学に残ることを断念した私を勝手に都合よく解釈した、両親が作り上げた実家が嫌いだった。実家にいても自分が受け入れられていると感じることはないし、両親の存在はいつも自分の軛に感じられる。この環境によく19年もいたものだ。

2017年、大学を脱出した私をある会社が雇ってくれた。その赴任先が熊本だった。本社勤務の時はまだ同期とつるめて楽しかったが、熊本では孤独だった。近くにあった乗馬クラブに行ってみたり、副業で家庭教師を始めたりしてみたが、どちらもうまくいかなかった。車を買ったことで貯金が底をつき、月末はサラ金でクレジットカードの引き落としをしのいでいた。

2018年になって少しずつ交友関係が広がり始め、定期的に読書会をするメンバーができた。読書会や映画の鑑賞会の場所を確保するという話になり、その場の勢いでアパートの一室を借りた。最初は「ノンポリ荘」にする予定だったが、直前に観ていたアニメ「さらざんまい」にあやかって「なべざんまい」という名前になった。

2019年は香港の揺れた年だった。私もチョンキンマンション(重慶大厦)に泊まり、『チョンキンマンションのボスは知っている』の読書会をした。そして新型コロナのパンデミックが始まり、10万円の給付金を受け取ったので、それを敷金に充てて契約したのが「ナベノハウス」だった。「ナベノ」は鍋と安倍をかけている。

そういうわけで、確かにナベノハウスには思い入れがある。でも、それは「実家」なのだろうか。気持ちの上では、両親のいる実家が仮の家であり、手作りのシェアハウスが実の家だとしても、不安定なものは明らかにナベノハウスだ。今後利用者がいなくなれば、私がセカンドハウスとして維持するのも限界があるだろう。

ナベノハウスが「実家」だというのは、東京に就職が決まって熊本を離れる、この瞬間の真実かもしれない。けれど、ナベノハウスは構築された実家であって血統書付きの実家ではない。こんなことを言うと、家族社会学あたりから実家概念が近代化の過程でいかに構築されたかを説教されそうだけど、私が言いたいことはそういうことではない。

大学からも実家からも切り離された個人が、今いる場所を「実家」として構築するというのがナベノハウスの隠れたテーマだったのだ。そもそも、ナベノハウスは職場でも家族でもないサードプレイスとして構想したものだった。そしてもちろん、ナベノハウスはサードプレイスとして機能し、近くの熊本大学を中心に人間関係が広がった。

しかし、根無し草の個人がサードプレイスに自身の落ち着く場所を見いだせるなら、それは家族でも職場でもない、構築された「実家」というべきだ。私は大学生のとき、どんどんシェアハウスを作る運動に加わっていたが、それは大学から失われた学生の居場所を確保するためだった。しかし、社会人になってより切実に必要だったのは「実家」を構築することだった。

そういうわけで、東京に行ってもしばらくは、私の魂はナベノハウスにあるでしょう。

なぜ機械設計技術者試験の受験者は男性ばかりなのか

機械設計は男の世界?

先日、機械設計技術者試験3級を受けてきました。私の試験会場では、大学の講義室で40人程度が受験していましたが、ざっと見た感じ全員男性のようでした。男女別に部屋を分けたのでなければ、とてもではありませんが令和の時代にあり得ない「惨状」だと思います。

3級は実務経験が不要で誰でも受験できるので、大学生の受験者が多い印象でした。どうやら、機械工学系に異常に男子学生が集中しているようです。どうしてこのような事態になってしまうのでしょうか。よく言われるように、高校で「女性は機械設計技術者に向いていないからやめておきなさい」と進路指導する先生がまだまだたくさんいるのでしょうか。

最近、ナベノハウスでは『ルポ大学崩壊』の読書会を開催しました。大学内で起こったいろいろな不祥事が取り上げられているのですが、特に気になったのが東北大学の事例です。准教授の自死で「ブラック企業対象」特別賞を2012年に受賞したとのことですが、その後の調査から、工学系大学院で慢性的なハラスメントが起こり続けていることが明らかになりました。

ハラスメントを受けた場面について聞くと、研究室や研究活動が大半を占めた。加害者の多くが教授や助教だった。具体的には、怒鳴られることや強い叱責などのパワハラが最も多く、研究における強要や強制、身体に接触されたなどのセクハラを受けたとする回答も多かった。

「八人に一人の割合でハラスメントを経験」Kindle版131ページ

 

私は工学系出身ではなく、就職してから実務で機械設計に携わるようになり、機械設計の基本的な理解があることを示すために受験しました。ですから、工学系大学院の雰囲気を肌感覚で知っているわけではありません。ただ、教育の現場に「ブラック」なイメージがあることが、女子学生の忌避を招いていると推測することもできるかもしれません。

残念ながら、こうした魅力的な仮説を吟味する力は私にありません。ということで、この記事の残りは機械設計技術者試験3級の勉強法に充てたいと思います。今後受験を考えている男性以外の方も含めて、少しでも情報提供ができればと思います。

機械設計技術者試験3級の勉強法

力学系の科目と知識系の科目

1年前の私は、過去問を解いても機械製図以外ほとんど正答できない状態でした。大学受験も化学・生物で、数学は多少微積に覚えがあるレベルだったので、力学の基礎を身に付けるのにかなり時間がかかりました。試験の本格的な準備は6カ月前くらいから始めて、ざっくり均すと1日1時間~3時間くらい勉強したと思います。

力学系の科目では、まず第一に機械力学の理解を固めるべきだと思います。次に材料力学機構学・機械設計要素を優先しました。ネジや軸・軸受け・キーの選定で材料力学の知識が必要になるからです。流体力学熱力学は後回しにしました。

知識系の科目では、機械製図を優先しました。実務で一番使う機会が多いと思いますし、早めに勉強して損はないです。その次におすすめなのが工作法です。図面を描くときに工作法を意識するのはとても重要で、製図との関連も深いからです。工業材料は知識の整理に鉄の結晶の化学的理解が必要で、やみくもに覚えまくるのはよくないと思いました。

力学系とも知識系とも言えないのが制御工学です。一番優先度を落とし、最終的に私は勉強する時間が取れませんでした。。

力学系の科目は、過去問を見て歯が立たなければまず適当な教科書で理論的な勉強から始めた方がいいと思います。反対に知識系の科目は、過去問で問われている知識を片っ端からネットで調べて整理していけばだんだん解けるようになっていきます。

過去問

試験を主宰している機械設計工業会から、令和1年~令和4年までの過去問と解答が入手できます。まずは一通りダウンロードすることをお勧めします。

www.kogyokai.com

それより前の過去問は有料です。電子書籍(PDFファイル)の過去問が3年分2000円です。私は平成27~29年の過去問セットを購入しました。答えと解説付きですが、有料な分もう少し解説を充実してほしい(知識を問う問題で答えの番号しか載っていないものもあります)という印象です。もちろん役に立ちましたが、無料で入手できる過去問で十分、という考えもありです。

逆にイチオシなのが、「機械設計技術者資格試験準拠【新版】機械工学の要点2022」です。試験範囲の知識が網羅されているわけではなく、このテキストだけで合格は難しいと思いますが、特に計算問題は有料過去問の解説より詳しいです。

note.com

過去問は、まず1年分を答えを見ながら解いて、全体のレベルや求められる知識を確認しました。その後、力学系のテキストを中心に学習し、最後の1カ月は「同じ科目を6年分一気に解く」ことで学習範囲の定着を図りました。結局、9科目を試験時間通りに解くという使い方を一度もしませんでしたが、実際に受けてみると時間が足りなくなることはありませんでした。ただ、力学系の科目はこれでよかったと思いますが、知識系の科目は図書館でいろいろ参考書を調べてもあまり効果はなく、早い段階で過去問をもっと解き進めていればよかったと後悔しました。

力学系の科目

力学系の勉強を始めるにあたって購入したテキストが『機械設計技術者のための四大力学』です。私が購入したのは旧版で、少し誤植もありましたが新版では直っているかもしれません。装丁も、旧版は四つの力学がバチバチ放電?している男子向けっぽい痛さがありますが、新版はニュートラルになっています。

この本は、機械力学、材料力学、流体力学、熱力学の理論がよくまとまっていて、例題や演習問題の数も適当だと思います。学習も、この章立て通りの順番でいいのではないでしょうか。私はまず問題を解かずに流し読みして、次に例題から演習問題まで一通り解いて、最後にもう一度演習問題を解きなおしました。ただ、この本だけでイチから力学を習得するのはかなりきついと思います。理論の部分はやや高度で、3級の試験範囲を考慮すると少々過剰学習です。

それなら各論をしっかり解説した教科書の方がいいのでは?と思う方もいるかもしれませんが、試験問題そっくりの例題や演習問題があったりするので、試験勉強という観点からはこの参考書が優れていると思います。

www.ohmsha.co.jp

困ったときのヨビノリ様、ということで、力学の動画を一通り視聴しました。高校範囲と言いつつ微積を踏まえて解説してあります。大学範囲の動画もあって、そちらも少し視聴しましたが、3級の力学なら高校範囲の解説で十分かなと思います。

それから、力学に不安があると言っても、高校力学の教科書や問題集から始める必要はないです。高校範囲には微積を使わないという制約があるみたいですが、最初から微積の知識を使って勉強した方が絶対に効率的です。


www.youtube.com

そしてもう一つ、参考にしたサイトが「EMANの物理学」です。運動量や慣性モーメントの解説も面白かったですが、特に感動したのは力学的エネルギー保存則の説明です。

力を質量mで割った加速度aから、時間で積分して速さvを、さらに積分して位置xを得ます。そこから時間を消すと、速度と位置を結ぶ有名な公式が得られます。この公式はよく使いますが、時間が出てこないのでちょっと変な感じがします。

両辺にm/2をかけると、

加速度を重力加速度に変えればエネルギー保存則の式になります。たしかに、エネルギーに時間は出てこないです。単位もジュールであっています。

eman-physics.net

機械力学

『機械設計技術者のための四大力学』を読んで難しいと感じたので、もっとレベルを落として、演習問題がさくさく解けるテキストを探しました。一番いいな、と思ったのが『ゼロからわかる機械力学入門』です。力学の初歩から解説が始まりますが、どんどん例題を解いていくうちに3級で要求されるレベルの計算ができるようになりました。

特に秀逸だったのは「斜面・ねじ」の解説です。斜面の仕事の応用でねじの効率が求められることがよくわかります。タンジェントの加法定理でとても簡潔な公式にできるのも鑑賞ポイントです。

材料力学

『機械設計技術者のための四大力学』の材料力学の章はよくまとまっていてそこまで引っかかるところはなかったのですが、『図解でやさしい入門材料力学』を副読本みたいな形で利用しました。例題や演習問題も難しすぎず、テンポよく読み進めることができました。3級で要求されるレベルからは外れますが、モールの応力円で垂直応力とせん断応力の関係を解析する意義が面白かったです。

「デルタ先生の物理と数学の部屋」のチャンネルも、勉強のはじめのころに何度か参照しました。動画を全部視聴したわけではありませんが、わかりやすい解説だと思います。


www.youtube.com

SFDとBMDを描けるようになるのが大変でしたが、力のつり合いとモーメントのつり合いからせん断力を決めて、それをSFDにまとめて、それを距離で積分してBMDを描く、と考えると解けるようになりました。

機械力学で出てくる回転体の慣性モーメントと、曲げモーメントから曲げ応力を求めるのに使う断面二次モーメント、トルク(ねじりモーメント)からねじり応力を求めるのに使う断面極二次モーメントもこんがらがって大変でした。断面形状に応じていろいろ値が変わりますが、長方形、「工」形、円形、「◎」形の式を押さえておけばほとんどの問題が解けると思います。

そもそも、何かに距離を掛けたものがモーメント。回転軸から遠くに重いものがあるほど動かしにくく止めにくいことを表すのが慣性モーメント、図心から遠くに広がりがあると曲げにくくなることを表すのが断面モーメントで距離を二乗するから二次がつく、と考えると感覚的にも理解できます。

軟鋼の縦弾性係数(約206GPa)と横弾性係数(約80GPa)は暗記必須で、毎年のように出題されます。

機構学・機械設計要素

機械力学、材料力学の力がある程度ついてきた段階で、機構学・機械設計要素の勉強も始めました。この科目は知識+理論の総合力が問われる感じで、機械製図とも少し関係するので、ある程度勉強が進んでから手を付けた方がいいと思います。過去問と『機械設計法』を突き合わせながら勉強するのがよかったです。

過去問でよく出題される機械設計要素は、ねじ、歯車、軸・軸受けです。リンク、ベルト、ばねも頻度は低いですが出題されます。小原歯車様の技術資料は、歯車についてよくまとまっていて参考になりました。

www.khkgears.co.jp

流体力学

『機械設計技術者のための四大力学』の流体力学の章は、逆になかなか読み進めることができませんでした。ただ、過去問との対応を考えるとよくまとまっています。過去問では噴流やポンプの計算がよく出題されます。流体機械の相似則もたまに出題され、このあたりは標準的な教科書に記載がないこともあると思います。レイノルズ数関係、特に臨界レイノルズ数が約2300であることは暗記が必要です。

私は『基礎から学ぶ流体力学』も使って勉強しましたが、同じ著者の『単位が取れる流体力学ノート』でもよかったかなと思います。ベルヌーイの定理(エネルギー保存則)を使えるようになるのが大変でしたが、圧力がkgm/m^2s^2=kgm^2/m^3s^2で体積当たりエネルギーになるのがポイントだと思います。

熱力学

『機械設計技術者のための四大力学』の熱力学の章も、読み進めるのが大変でした。あとから読み返しても、あまりよい解説ではない気がします。結局『例題で分かる工業熱力学』で勉強しました。また、「機械工学の要点」の方が的を絞った的確な解説になっています。

ただ、上記と矛盾するようですが、熱力学は得点を取りやすいと思います。熱と仕事はエネルギーと同じ(第一法則)、比熱で温度と熱を関係づける、比熱と気体定数の関係、熱効率は温度の比で計算、エントロピーは温度あたりの熱、あたりを踏まえて過去問を解いていくうちに、3級に必要な計算力はついてくると思いました。

電熱工学は、過去問がほぼ型にはまっていて、特に参考書は使いませんでした。

qは熱流束、t1は内壁、t2は外壁の温度、δは板厚、λは熱伝導率です。この式を使って解く問題がほとんどです。今年(令和五年度)は、電熱量の式が、電気が電圧の高いところから低いところに流れるのと同様に理解できるという誘導のついた問題でした。

知識系の科目

知識系の科目全般に言えることですが、参考書を探すのではなく、過去問を解いてわからないところをネットで調べるのが効率がいいと思います。私は、調べたページの図や文章をコピペしてEvernoteに整理してまとめていきました。工作法など、動画もたくさん利用して加工のイメージをつかむのが効果的だと思います。

evernote.com

機械製図

機械設計製図便覧と首っ引きで勉強するのが王道ですが、実務ならともかく、試験対策でそこまでするのはちょっとどうかな、と思います。

JIS規格をピンポイントで検索するには、「Kikakuri」さまのサイトが便利です。JISB0001:2019「機械製図」、JISB0123:1999「ねじの表し方」、JISB0122:1978「加工方法記号」などは必読です。

kikakurui.com

最初は「機械製図」のサイトを参考にさせていただきました。簡潔に、機械製図で必要な知識の全体像を俯瞰できる優れた資料だと思います。

kikai-seizu.s-projects.net

溶接記号は必ず出題されます。過去問を解きながら、Mitsuri様のページを参考にさせていただくことが多かったです。

mitsu-ri.net

金属記号も、覚えるのが大変です。王道は、SS400はSteel Structual 400MPa(引っ張り強さ)のように、頭の中で英語やローマ字に変換できるようにすることだと思います。すべて覚えるのは現実的ではないので、出題されたものを太字にして後で見返すようにしました。

d-monoweb.com

もし実務で図面を引かれる方で、幾何公差に苦手意識がある場合は、受験を機に体系的に学習するのもいいのではないでしょうか。設計意図を公差に反映させる、という意識はとても大切だと思います。

工作法

機械加工(切削・研削)、塑性加工(鍛造など)、鋳造がそれぞれどのような工作法なのか把握していく必要があります。工作機械も出題されるので、写真や動画の活用が有効です。JISB0122:1978「加工方法記号」を確認し、出題された記号をチェックしていくといいと思います。

『機械加工の知識がやさしくわかる本』は、これだけで工作法の出題に対応することはできませんが、知識を整理するという意味で非常にわかり易い良書でした。

「はじめの工作機械」のサイトには動画や写真を使った説明が多く、工作機械について調べるときにとても役立ちました。

monoto.co.jp

工業材料

この科目は少し特殊で、やみくもに暗記するのではなく、鉄鋼の結晶構造についてある程度理解してから知識を広げていく方がいいと思います。『元素から見た鉄鋼材料と切削の基礎知識』は、わかり易く、体系的・網羅的な説明で、手元に置いて何度も読み返す価値のある良書です。

鉄ー炭素系平衡状態図と連続冷却変態曲線の理解は必須です。A1変態点(727℃)や共析点(約0.8%)は暗記が必要です。ステンレス鋼の分類や特徴も出題されることが多いです。

トタンは鉄に亜鉛、ブリキは鉄にスズのメッキです。やたらと出題されます。

おまけ:制御工学

私は制御工学を捨ててしまったのでコメントしづらいのですが、端から勉強しないと決めつけるわけにもいきません….。一つ言えるのは、知識で解ける問題も出題されるということです。直近の令和1年度~令和5年度の大問1は基本的に知識問題で、電卓をたたく必要がありません。これは最近の傾向となっています。今後はわかりませんが、制御工学を知識系の科目と見切って、半分取れれば御の字と考えることもできます。

学習が間に合わなくても、過去問の大問1だけ一通り確認して試験に臨むことをお勧めします。

技能検定 機械・プラント製図

もし機械設計の実務経験があるなら、「機械力学・材料力学」「機械製図・工作法」はモチベーションを保ちやすいと思います。また、機械設計技術者試験民間資格ですが、技能検定 機械・プラント製図は国家資格で、学科科目の内容はかなり重複しています。国家資格だけあって参考書のクオリティも高いです。

最後に、試験対策で参考にさせていただいたサイトさまを紹介します。Evernoteの利用もこちらで紹介されていました。機械設計技術者試験の他にも、技能検定 機械・プラント製図など、様々な情報が掲載されています。

www.noboyu.com

公害防止管理者 水質有害物質特論のすすめ

福岡アジア美術館で「水俣・福岡展」が開催されます。有機水銀中毒により、今もなお被害を受けた多くの人々が苦しんでいます。

faam.city.fukuoka.lg.jp

 

四大公害病水俣病新潟水俣病イタイイタイ病四日市ぜんそく)に代表される激甚な公害が各地で発生したため、1970年の「公害国会」において広範な公害関連法案が可決されました。それらは現在、1993年に成立した環境基本法のもとに体系化されています。

しかし、工業化がさらに進展している現在、大気や水質環境はどのように維持されているのでしょうか。それを具体的に知る一つの方法が、公害防止管理者という資格を勉強することだと思います。

特定工場における公害防止組織の整備に関する法律」で指定された工場は公害防止組織を整備し、公害防止統括者等を選任しなければなりません。その公害防止組織で求められる資格が公害防止管理者です。

公害防止管理者試験には大きく大気、水質、の資格がありますが(他にもあります)水俣病に関係するのは水質の「有害物質特論」という科目です。

あなたがチッソの工場監督者だったとします。あなたは触媒に使用した水銀をどのように処理するべきでしょうか。それは、「サーキュレーター」のような非科学的な沈殿槽(のようなもの)を作るのではなく、塩素で水銀についているアルキル基を酸化分解し、水銀イオンに変え、それを中性条件で硫化水素による沈殿によって除去しなければなりません。沈殿した水銀を回収しない場合は、セメント固化やキレート剤添加によって汚泥からの溶出を防ぐ必要があります。

さらに、排水にどの程度水銀が含まれているかを知るために、強酸と酸化剤で水銀化合物を無機水銀まで分解した後、スズで還元した金属水銀を還元気化原子吸光法で測定したり、ガスクロマトグラフ法や薄層クロマトグラフ分離-原子吸光分析法で有機水銀を測定したりする必要があります。

このような方法を考慮せずに、水銀を工業的に使用してはいけないのです。しかし、こうした方法が確立されるまでにどれだけの犠牲が払われたのか、思いを致すことが大切だと、一受験者として思います。

公害防止管理者の水質関係を勉強する

それでは、公害防止管理者の水質関係を勉強するにはどうすればよいでしょうか。なにか一冊手元に置くとすれば、産業環境管理協会の過去問題集です。公式テキスト「新・公害防止の技術と法規」の該当部分が抜き書きされているので、問題を解いて解説を読むことを繰り返すだけでかなり力をつけることができます。これだけ購入して、後はネットで勉強して合格を狙うことも不可能ではないと思います。

これと、公式テキストの「新・公害防止の技術と法規」で勉強するのが正攻法ですが、それだけではわざわざ記事を書く甲斐がないので、全く前提知識のない状態から勉強を始めるにはどうすればいいか、という観点からおすすめの書籍を紹介します。

内容としては基礎の基礎ですが、水質関係で要求される知識の全体像をつかむには最適だと思います。これを図書館で借りて入門するのもいいのではないでしょうか。

産業環境管理協会の出している入門書もあります。こちらは過去問の抜粋もあるので、試験の概要をつかむのに最適です。ただし、試験で問われる知識の半分程度しか網羅されていないので、この本に書いてある知識を完璧にしても合格(6割以上)は難しいです。

試験の概要や、上記の「基礎講座」でほとんど触れられていない公害総論については、最近「かたくらch」さんがよくまとまった動画を投稿されています。法律の勉強の仕方は特に参考になると思います。

www.youtube.com

過去問がよくまとまっているサイトもあります。

yaku-tik.com

なんと10年以上の過去問が簡単な解答・解説付きで掲載されています。このサイトさまを利用して過去問を繰り返し解けば合格圏内にはいると思います。

それから、私はバックグラウンドが化学・生物系なので、法律の勉強に苦戦しました。

公害総論は、知識問題は過去問でだいたいカバーできますが、環境基本法のいくつかの条文は丸暗記が求められるようです。すべてを暗記できるわけがないので、過去問でよく問われる頻出の条文を集中して覚えるのが良いと思います。具体的には、環境基本法の2,4,8,16,20条あたりを覚える必要があると思います。また、他の主要な法律を知っておく必要はありますが、暗記するならまず環境基本法に集中するのがよさそうです。同義語で誤りの選択肢が作られていて、明らかに暗記を要求している問題が多いからです。法規の全体像は「まるごとわかる環境法」がよく整理されていると思ったので、流し読みしました。

勉強のテクニック

勉強のテクニックですが、ネットで情報を収集するとき、サイトの情報を抜き書きする「ノート」を作るとよいと思います。「公害防止管理者試験まとめました」の解説から気になる箇所をコピペし、さらにわからない単語を検索してその説明をコピペし、自分専用の試験ノートを作るとよいのではないでしょうか。いろいろ方法はあると思いますが、私の使ったアプリはEvernoteです。

evernote.com

また、ノートを作るときは、公害総論なら公害総論、水質概論なら水質概論と範囲を決めて、その範囲の過去問をどんどんさかのぼって解きながらまとめていくのがいいでしょう。年度ごとにすべての科目を解く勉強の仕方は、試験直前の実力試しならともかく、知識を整理する目的にはそぐわないです。

有害物質特論に挑む

さて、それでは公害総論、水質概論、汚水処理特論、水質有害物質特論、大規模水質特論で特に難しい科目はどれでしょうか。ずばり、水質有害物質特論だと思います。難しいというのは、過去問を解きすすめるだけでは、効率的に勉強できない要素があると思うからです。

そこでおすすめなのが、高校化学の無機化学の復習です。私はバイトで高校生に化学を教えていたので、沈殿の知識がスムーズに入ってきました。水酸化物や硫化物の沈殿は、図説のきれいなイラストを眺めてみるのもいかがでしょうか。

次におすすめなのが、「これからの環境分析入門」です。もし図書館で見つけたら、機器分析手法を一読するのをお勧めします。機器の名前だけでは原理がよくわかりませんし、ネットで見つけられる情報にも限度があります。

さて、最後に、ネットで見つかる情報には限りがあると言いましたが、google scholerで「わかり易い公害分析・計測基礎講座」を検索してみてください。

1980年ころの古い解説ですが、これが意外と使えます。特に吸光光度法は、なぜ~吸光光度法とつくいろいろな方法があるのか納得できます。原子吸光法との違いも秀逸です。当時の試行錯誤があって今の整備された検定法があることが伝わってきます。

先人が激甚な公害病の被害に苦しみ、その教訓を体系化し、公害防止組織という制度として具体化されていること、それを試験を通して思い起こすのも良いのではないでしょうか。

『ジェネレーション・レフト』読書会の記録

めっきり寒くなってきました!

渋柿がでまわる季節になってきましたので、恒例の干し柿づくりも敢行しました。たくさん作ったので、お正月には間に合わなさそうですが、おすそ分けできたらと思っています。

今日の読書会は『ジェネレーション・レフト』!

世代論をテーマに、Z世代をいかに論じるか、若者の右傾化もささやかれる日本にジェネレーション・レフトはあるのか……といった話になるかと思いきや、全体的に辛口の読書会となりました。

とにかく変革を求めるという若い世代の加速主義的な衝動、世代論でどこまで説明の解像度を上げられるか、68年革命との対比や今までの若い世代の運動との相対化、などが話題に上りました。

 

『くらしのアナキズム』読書会の記録

昨日は久しぶりの読書会でした。

参院選もあり、政治について語るたたき台として『くらしのアナキズム』を選びました。

人類学が明らかにした国家以前の人間の在り方に、人間の本来の在り方であるアナキズムが体現されているという内容です。

アナキズム国民国家を否定する近代-現代思想の一つと考えられがちですが、その基盤はむしろ人類史の最も深いところにあるということですね。

国民国家の仕組みは、国家なき社会、国民国家成立以前の社会、あるいは国民国家が崩壊したときの社会とは大きく異なるものです。その断絶をつなぐのがアナキズムの思想であり、国民国家の中にいながらアナキズムを考えることは、国民国家が「デフォルト」ではない社会を国民国家の中で実践することになるのだと思います。

一方で、このようなアナキズムのとらえ方は国民国家を否定しないどころか、国民国家の枠内で日々の暮らしをよりよいものにしようという努力を促す思想ともなるかもしれません。日々の家族や職場のコミュニティ、あるいは災害でできた行政の空白の中で「アナキズム」を実践しようという形で、既存の体制と相補的なものとなることができるでしょう。「暮らし」を第一に掲げるアナキズムは保守的で体制維持的なものとなるかもしれない。

国民国家は私たちを完全に支配するのではない、むしろ私たちが私たち自身を「下から」支配していくことで、国民国家は完成するといえます。例えば、国家は感染症対策を制定しますが、それを支えるのは外出を自粛したりマスクをつけたりすることを促す「アナキズム」的な実践でもあるわけです。

もちろん、こうした解釈は著者の主張とは外れていくのですが……いずれにせよ、アナキストの「大物」からたどる教科書的な入門書とは違う、人類学からのアプローチはとても新鮮でした!

『労働組合とは何か』読書会の記録

春爛漫の季節となりました。

5月1日はメーデーにあわせて、『労働組合とは何か』読書会を行いました。

まずはメーデー歌を聞きましょう。大滝詠一日本ポップス伝で知ったのですが、一高寮歌の「アムール川の流血や」、軍歌「歩兵の本領」とおなじメロディーです。当時は西洋音楽の旋律が貴重で、何度も使い回したとのことです。覚えやすくて元気の出る良い歌だと思います。


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読んだ本は、木下武男『労働組合とは何か』です。

本書は中世のギルドからさかのぼって労働運動の歴史を、とくに産業別組合に注目して整理したものです。前半はヨーロッパとアメリカの労働運動の歴史的背景を説明し、後半は日本の労働運動の分析となっています。特に関西生コンの事例が詳述されているのが、本書の特徴と言えるでしょう。

かいつまんで内容を追っていくと、

・中世のギルドは内向きの平等(仲間で競争しない)と、外向きの独占(競合を認めない)とによって、職人の労働を管理していました。労働組合の目的は競争を抑止し労働者の酷使を防ぐことにあり、その起源はこのギルドにあります。

産業革命が起きると、市場が自由化しギルドの独占が崩れ始めます。ギルドは保守化し既得権益を守ろうとしました。一方、雇用者と交渉する組織として職業別労働組合が生まれました。自由市場の競争から労働者を守るという目的は形を変えて受け継がれました。

労働組合は、雇用者に対抗できる強い組織力が重要です。この点、企業別組合は企業を越えた賃金や雇用環境の要求を打ち出せず、政党と結合した組合は政治や法によって労働環境を変える運動に向かいがちで本来の労働組合の目的を逸脱してしまいます。

・日本の企業別・政党色の強い労働組合は高度経済成長とともに発展しましたが、90年代の構造変化に対応できず、解体が進んでいます。それを食い止めるためには、産業別組合による高い交渉力をもった「本来の労働組合」を作る必要があります。

・最後に、今日の非正規雇用の拡大に対応した、業種を越えて一般に労働者を組織する一般労働組合の展望が述べられています。

労働組合とは何か (岩波新書 新赤版 1872)

 

読書会では、転職、離職が労働者が雇用者に「抵抗」する(ほぼ唯一の?)手段となっている現状や、労働の「構想」と「実行」の分離によって労働者が交渉力を失い、構想する雇用側と実行する労働者側へと細分化が進んでいくことへの賛否について話しました。参加されたみなさんありがとうございます!

 

久し振りの読書会でしたが、これからもイベント企画予定です。ご期待ください!

 

最後に、読書会のレジュメです↓