ナベノハウス活動記録

熊本コモンハウス「ナベノハウス(鍋乃大厦)」@KNabezanmaiの活動記録です

なぜ機械設計技術者試験の受験者は男性ばかりなのか

機械設計は男の世界?

先日、機械設計技術者試験3級を受けてきました。私の試験会場では、大学の講義室で40人程度が受験していましたが、ざっと見た感じ全員男性のようでした。男女別に部屋を分けたのでなければ、とてもではありませんが令和の時代にあり得ない「惨状」だと思います。

3級は実務経験が不要で誰でも受験できるので、大学生の受験者が多い印象でした。どうやら、機械工学系に異常に男子学生が集中しているようです。どうしてこのような事態になってしまうのでしょうか。よく言われるように、高校で「女性は機械設計技術者に向いていないからやめておきなさい」と進路指導する先生がまだまだたくさんいるのでしょうか。

最近、ナベノハウスでは『ルポ大学崩壊』の読書会を開催しました。大学内で起こったいろいろな不祥事が取り上げられているのですが、特に気になったのが東北大学の事例です。准教授の自死で「ブラック企業対象」特別賞を2012年に受賞したとのことですが、その後の調査から、工学系大学院で慢性的なハラスメントが起こり続けていることが明らかになりました。

ハラスメントを受けた場面について聞くと、研究室や研究活動が大半を占めた。加害者の多くが教授や助教だった。具体的には、怒鳴られることや強い叱責などのパワハラが最も多く、研究における強要や強制、身体に接触されたなどのセクハラを受けたとする回答も多かった。

「八人に一人の割合でハラスメントを経験」Kindle版131ページ

 

私は工学系出身ではなく、就職してから実務で機械設計に携わるようになり、機械設計の基本的な理解があることを示すために受験しました。ですから、工学系大学院の雰囲気を肌感覚で知っているわけではありません。ただ、教育の現場に「ブラック」なイメージがあることが、女子学生の忌避を招いていると推測することもできるかもしれません。

残念ながら、こうした魅力的な仮説を吟味する力は私にありません。ということで、この記事の残りは機械設計技術者試験3級の勉強法に充てたいと思います。今後受験を考えている男性以外の方も含めて、少しでも情報提供ができればと思います。

機械設計技術者試験3級の勉強法

力学系の科目と知識系の科目

1年前の私は、過去問を解いても機械製図以外ほとんど正答できない状態でした。大学受験も化学・生物で、数学は多少微積に覚えがあるレベルだったので、力学の基礎を身に付けるのにかなり時間がかかりました。試験の本格的な準備は6カ月前くらいから始めて、ざっくり均すと1日1時間~3時間くらい勉強したと思います。

力学系の科目では、まず第一に機械力学の理解を固めるべきだと思います。次に材料力学機構学・機械設計要素を優先しました。ネジや軸・軸受け・キーの選定で材料力学の知識が必要になるからです。流体力学熱力学は後回しにしました。

知識系の科目では、機械製図を優先しました。実務で一番使う機会が多いと思いますし、早めに勉強して損はないです。その次におすすめなのが工作法です。図面を描くときに工作法を意識するのはとても重要で、製図との関連も深いからです。工業材料は知識の整理に鉄の結晶の化学的理解が必要で、やみくもに覚えまくるのはよくないと思いました。

力学系とも知識系とも言えないのが制御工学です。一番優先度を落とし、最終的に私は勉強する時間が取れませんでした。。

力学系の科目は、過去問を見て歯が立たなければまず適当な教科書で理論的な勉強から始めた方がいいと思います。反対に知識系の科目は、過去問で問われている知識を片っ端からネットで調べて整理していけばだんだん解けるようになっていきます。

過去問

試験を主宰している機械設計工業会から、令和1年~令和4年までの過去問と解答が入手できます。まずは一通りダウンロードすることをお勧めします。

www.kogyokai.com

それより前の過去問は有料です。電子書籍(PDFファイル)の過去問が3年分2000円です。私は平成27~29年の過去問セットを購入しました。答えと解説付きですが、有料な分もう少し解説を充実してほしい(知識を問う問題で答えの番号しか載っていないものもあります)という印象です。もちろん役に立ちましたが、無料で入手できる過去問で十分、という考えもありです。

逆にイチオシなのが、「機械設計技術者資格試験準拠【新版】機械工学の要点2022」です。試験範囲の知識が網羅されているわけではなく、このテキストだけで合格は難しいと思いますが、特に計算問題は有料過去問の解説より詳しいです。

note.com

過去問は、まず1年分を答えを見ながら解いて、全体のレベルや求められる知識を確認しました。その後、力学系のテキストを中心に学習し、最後の1カ月は「同じ科目を6年分一気に解く」ことで学習範囲の定着を図りました。結局、9科目を試験時間通りに解くという使い方を一度もしませんでしたが、実際に受けてみると時間が足りなくなることはありませんでした。ただ、力学系の科目はこれでよかったと思いますが、知識系の科目は図書館でいろいろ参考書を調べてもあまり効果はなく、早い段階で過去問をもっと解き進めていればよかったと後悔しました。

力学系の科目

力学系の勉強を始めるにあたって購入したテキストが『機械設計技術者のための四大力学』です。私が購入したのは旧版で、少し誤植もありましたが新版では直っているかもしれません。装丁も、旧版は四つの力学がバチバチ放電?している男子向けっぽい痛さがありますが、新版はニュートラルになっています。

この本は、機械力学、材料力学、流体力学、熱力学の理論がよくまとまっていて、例題や演習問題の数も適当だと思います。学習も、この章立て通りの順番でいいのではないでしょうか。私はまず問題を解かずに流し読みして、次に例題から演習問題まで一通り解いて、最後にもう一度演習問題を解きなおしました。ただ、この本だけでイチから力学を習得するのはかなりきついと思います。理論の部分はやや高度で、3級の試験範囲を考慮すると少々過剰学習です。

それなら各論をしっかり解説した教科書の方がいいのでは?と思う方もいるかもしれませんが、試験問題そっくりの例題や演習問題があったりするので、試験勉強という観点からはこの参考書が優れていると思います。

www.ohmsha.co.jp

困ったときのヨビノリ様、ということで、力学の動画を一通り視聴しました。高校範囲と言いつつ微積を踏まえて解説してあります。大学範囲の動画もあって、そちらも少し視聴しましたが、3級の力学なら高校範囲の解説で十分かなと思います。

それから、力学に不安があると言っても、高校力学の教科書や問題集から始める必要はないです。高校範囲には微積を使わないという制約があるみたいですが、最初から微積の知識を使って勉強した方が絶対に効率的です。


www.youtube.com

そしてもう一つ、参考にしたサイトが「EMANの物理学」です。運動量や慣性モーメントの解説も面白かったですが、特に感動したのは力学的エネルギー保存則の説明です。

力を質量mで割った加速度aから、時間で積分して速さvを、さらに積分して位置xを得ます。そこから時間を消すと、速度と位置を結ぶ有名な公式が得られます。この公式はよく使いますが、時間が出てこないのでちょっと変な感じがします。

両辺にm/2をかけると、

加速度を重力加速度に変えればエネルギー保存則の式になります。たしかに、エネルギーに時間は出てこないです。単位もジュールであっています。

eman-physics.net

機械力学

『機械設計技術者のための四大力学』を読んで難しいと感じたので、もっとレベルを落として、演習問題がさくさく解けるテキストを探しました。一番いいな、と思ったのが『ゼロからわかる機械力学入門』です。力学の初歩から解説が始まりますが、どんどん例題を解いていくうちに3級で要求されるレベルの計算ができるようになりました。

特に秀逸だったのは「斜面・ねじ」の解説です。斜面の仕事の応用でねじの効率が求められることがよくわかります。タンジェントの加法定理でとても簡潔な公式にできるのも鑑賞ポイントです。

材料力学

『機械設計技術者のための四大力学』の材料力学の章はよくまとまっていてそこまで引っかかるところはなかったのですが、『図解でやさしい入門材料力学』を副読本みたいな形で利用しました。例題や演習問題も難しすぎず、テンポよく読み進めることができました。3級で要求されるレベルからは外れますが、モールの応力円で垂直応力とせん断応力の関係を解析する意義が面白かったです。

「デルタ先生の物理と数学の部屋」のチャンネルも、勉強のはじめのころに何度か参照しました。動画を全部視聴したわけではありませんが、わかりやすい解説だと思います。


www.youtube.com

SFDとBMDを描けるようになるのが大変でしたが、力のつり合いとモーメントのつり合いからせん断力を決めて、それをSFDにまとめて、それを距離で積分してBMDを描く、と考えると解けるようになりました。

機械力学で出てくる回転体の慣性モーメントと、曲げモーメントから曲げ応力を求めるのに使う断面二次モーメント、トルク(ねじりモーメント)からねじり応力を求めるのに使う断面極二次モーメントもこんがらがって大変でした。断面形状に応じていろいろ値が変わりますが、長方形、「工」形、円形、「◎」形の式を押さえておけばほとんどの問題が解けると思います。

そもそも、何かに距離を掛けたものがモーメント。回転軸から遠くに重いものがあるほど動かしにくく止めにくいことを表すのが慣性モーメント、図心から遠くに広がりがあると曲げにくくなることを表すのが断面モーメントで距離を二乗するから二次がつく、と考えると感覚的にも理解できます。

軟鋼の縦弾性係数(約206GPa)と横弾性係数(約80GPa)は暗記必須で、毎年のように出題されます。

機構学・機械設計要素

機械力学、材料力学の力がある程度ついてきた段階で、機構学・機械設計要素の勉強も始めました。この科目は知識+理論の総合力が問われる感じで、機械製図とも少し関係するので、ある程度勉強が進んでから手を付けた方がいいと思います。過去問と『機械設計法』を突き合わせながら勉強するのがよかったです。

過去問でよく出題される機械設計要素は、ねじ、歯車、軸・軸受けです。リンク、ベルト、ばねも頻度は低いですが出題されます。小原歯車様の技術資料は、歯車についてよくまとまっていて参考になりました。

www.khkgears.co.jp

流体力学

『機械設計技術者のための四大力学』の流体力学の章は、逆になかなか読み進めることができませんでした。ただ、過去問との対応を考えるとよくまとまっています。過去問では噴流やポンプの計算がよく出題されます。流体機械の相似則もたまに出題され、このあたりは標準的な教科書に記載がないこともあると思います。レイノルズ数関係、特に臨界レイノルズ数が約2300であることは暗記が必要です。

私は『基礎から学ぶ流体力学』も使って勉強しましたが、同じ著者の『単位が取れる流体力学ノート』でもよかったかなと思います。ベルヌーイの定理(エネルギー保存則)を使えるようになるのが大変でしたが、圧力がkgm/m^2s^2=kgm^2/m^3s^2で体積当たりエネルギーになるのがポイントだと思います。

熱力学

『機械設計技術者のための四大力学』の熱力学の章も、読み進めるのが大変でした。あとから読み返しても、あまりよい解説ではない気がします。結局『例題で分かる工業熱力学』で勉強しました。また、「機械工学の要点」の方が的を絞った的確な解説になっています。

ただ、上記と矛盾するようですが、熱力学は得点を取りやすいと思います。熱と仕事はエネルギーと同じ(第一法則)、比熱で温度と熱を関係づける、比熱と気体定数の関係、熱効率は温度の比で計算、エントロピーは温度あたりの熱、あたりを踏まえて過去問を解いていくうちに、3級に必要な計算力はついてくると思いました。

電熱工学は、過去問がほぼ型にはまっていて、特に参考書は使いませんでした。

qは熱流束、t1は内壁、t2は外壁の温度、δは板厚、λは熱伝導率です。この式を使って解く問題がほとんどです。今年(令和五年度)は、電熱量の式が、電気が電圧の高いところから低いところに流れるのと同様に理解できるという誘導のついた問題でした。

知識系の科目

知識系の科目全般に言えることですが、参考書を探すのではなく、過去問を解いてわからないところをネットで調べるのが効率がいいと思います。私は、調べたページの図や文章をコピペしてEvernoteに整理してまとめていきました。工作法など、動画もたくさん利用して加工のイメージをつかむのが効果的だと思います。

evernote.com

機械製図

機械設計製図便覧と首っ引きで勉強するのが王道ですが、実務ならともかく、試験対策でそこまでするのはちょっとどうかな、と思います。

JIS規格をピンポイントで検索するには、「Kikakuri」さまのサイトが便利です。JISB0001:2019「機械製図」、JISB0123:1999「ねじの表し方」、JISB0122:1978「加工方法記号」などは必読です。

kikakurui.com

最初は「機械製図」のサイトを参考にさせていただきました。簡潔に、機械製図で必要な知識の全体像を俯瞰できる優れた資料だと思います。

kikai-seizu.s-projects.net

溶接記号は必ず出題されます。過去問を解きながら、Mitsuri様のページを参考にさせていただくことが多かったです。

mitsu-ri.net

金属記号も、覚えるのが大変です。王道は、SS400はSteel Structual 400MPa(引っ張り強さ)のように、頭の中で英語やローマ字に変換できるようにすることだと思います。すべて覚えるのは現実的ではないので、出題されたものを太字にして後で見返すようにしました。

d-monoweb.com

もし実務で図面を引かれる方で、幾何公差に苦手意識がある場合は、受験を機に体系的に学習するのもいいのではないでしょうか。設計意図を公差に反映させる、という意識はとても大切だと思います。

工作法

機械加工(切削・研削)、塑性加工(鍛造など)、鋳造がそれぞれどのような工作法なのか把握していく必要があります。工作機械も出題されるので、写真や動画の活用が有効です。JISB0122:1978「加工方法記号」を確認し、出題された記号をチェックしていくといいと思います。

『機械加工の知識がやさしくわかる本』は、これだけで工作法の出題に対応することはできませんが、知識を整理するという意味で非常にわかり易い良書でした。

「はじめの工作機械」のサイトには動画や写真を使った説明が多く、工作機械について調べるときにとても役立ちました。

monoto.co.jp

工業材料

この科目は少し特殊で、やみくもに暗記するのではなく、鉄鋼の結晶構造についてある程度理解してから知識を広げていく方がいいと思います。『元素から見た鉄鋼材料と切削の基礎知識』は、わかり易く、体系的・網羅的な説明で、手元に置いて何度も読み返す価値のある良書です。

鉄ー炭素系平衡状態図と連続冷却変態曲線の理解は必須です。A1変態点(727℃)や共析点(約0.8%)は暗記が必要です。ステンレス鋼の分類や特徴も出題されることが多いです。

トタンは鉄に亜鉛、ブリキは鉄にスズのメッキです。やたらと出題されます。

おまけ:制御工学

私は制御工学を捨ててしまったのでコメントしづらいのですが、端から勉強しないと決めつけるわけにもいきません….。一つ言えるのは、知識で解ける問題も出題されるということです。直近の令和1年度~令和5年度の大問1は基本的に知識問題で、電卓をたたく必要がありません。これは最近の傾向となっています。今後はわかりませんが、制御工学を知識系の科目と見切って、半分取れれば御の字と考えることもできます。

学習が間に合わなくても、過去問の大問1だけ一通り確認して試験に臨むことをお勧めします。

技能検定 機械・プラント製図

もし機械設計の実務経験があるなら、「機械力学・材料力学」「機械製図・工作法」はモチベーションを保ちやすいと思います。また、機械設計技術者試験民間資格ですが、技能検定 機械・プラント製図は国家資格で、学科科目の内容はかなり重複しています。国家資格だけあって参考書のクオリティも高いです。

最後に、試験対策で参考にさせていただいたサイトさまを紹介します。Evernoteの利用もこちらで紹介されていました。機械設計技術者試験の他にも、技能検定 機械・プラント製図など、様々な情報が掲載されています。

www.noboyu.com