ナベノハウス活動記録

熊本コモンハウス「ナベノハウス(鍋乃大厦)」@KNabezanmaiの活動記録です

パラサイト感想

パラサイトを見てから1か月くらいたつけど、アカデミー賞を制して勢いがあるうちに簡単なレビューをしておこう。

それから、このブログの映画評はどれも容赦なくネタバレしていくスタイルなのでこの記事でも徹底的にネタバレしていくからそのつもりで。念のため言い添えておくと、パラサイトはあんまり知識を仕込んでいかなく「ても」楽しめる作品だから、まだ映画館に行っていない人にはこの記事はあまりお勧めできない。僕はできるだけ作品の知識を仕入れて映画を見に行く人間なのでネタバレを警告するなんて個人的にはナンセンスなのだが、そういう僕ですらこれはオチを知らずに見た方が楽しめるだろうなと思ってしまう。それだけよくできたストーリーだ。

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Soju One Glass(焼酎一杯)

映画は半地下の家に住むキム一家がその日暮らしをしているところから始まる。この半地下というのは、もともとは北朝鮮の攻撃に備えるシェルターとして作られていたらしく、こういうつくりがソウルの住宅には結構あるらしい。それが格安で貸し出され、貧困層の住居になっており、そうした家に住む人の数は300万人にも達するらしい。

もちろんこの「地下」は単なる事実ではなく、「日の当たる場所に出られない」貧困層というメタファーでもある。キム一家の長男ギウは学力があるものの金が無くて大学に通えない。ところがギウの高校の友人ミニョクがギウに家庭教師のアルバイトを持ちかける。その友達は名門大学に通うエリートで、一年留学に行く間、勉強を見ている金持ちの娘ダヘの面倒を見てほしいという。なぜなら、ミニョクは大学に入ったダヘと交際するつもりなので、他の大学生に手を出されたくないのだ。ギウは信用でき、なによりあまりにも階層がはなれすぎているせいで競争相手にはならないだろう。ギウは妹ギジョンにミニョクと同じ大学の入学証書を偽装してもらい、ダヘの家庭教師となることに成功する。

ミニョクはギウに、富をもたらす山水景石をあげる。この石が、キム一家の巻き込まれる運命を予告するものとなる。ダヘの父は今を時めくIT企業の社長で、一家は高名な建築家が設計したという高台の邸宅に家政婦と住んでいる。キム一家は巧みな口車でこのパク一家に取り込んでいく。妹ギジョンはダヘの弟ダソンの絵の先生、父ギテクは運転手、そしてもとの家政婦を追い出して母チュンスクが家政婦におさまる。ちなみにこの一家の名前は寄生虫(ギセンチュン)からとっているらしい。

もちろんこの四人は赤の他人ということになっているのだが、幼いダソンは子供特有の嗅覚で「四人が同じ匂い」であることに気が付く。その場はなんとかごまかせるものの、一家がひやりとする場面である。半地下の家は湿気がひどく、黴臭い。その貧乏人の「臭い」が感づかれそうになってしまったのだ。

ところで、この邸宅には秘密があった。それが幽霊である。ダソンの誕生日の日、夜中にバースデーケーキを盗み食いしていたダソンは台所で幽霊に会い、ショックで発作を起こす。それ以来、ダソンの誕生日は外出するのがパク一家のならわしだったのだ。家の主が留守の間にキム一家はリビングに上がり込み、酒盛りのどんちゃん騒ぎを始める。パク一家には決して見せないが、皆素行が荒っぽい。ギテクがチュンスクの冗談に怒ってテーブルの食器を払いのけるシーンはひやりとするほど暴力的だ。

そのとき、チャイムが鳴る。訪問者は追い出したかつての家政婦ムングァンだった。チュンスクがしぶしぶ扉を開けると、ムングァンは台所に入って行き秘密の隠し扉を押しあける。ムングァンはこの邸宅を設計した建築家の住んでいた時から家政婦として働いていたので邸宅の構造を熟知していた。そこで、パク一家の知らない地下室で借金取りに追われる夫をかくまっていたのだ。だが、とつぜんやって来たキム一家に仕事を追われ、夫を地下室から出してやることができなくなった。パク一家が外出するダソンの誕生日に、飢え死にしかかっている夫グンゼに差し入れをしに来たのである。そう、このグンゼこそ、ダソンが見た幽霊の正体。夜中に冷蔵庫の食べ物を取りに行こうとして鉢合わせてしまったのだ。

それにしても、やってくるムングァンは髪もぼさぼさ、言動もホラー映画のように不気味な演出なのはさすがである。

表の世界に出られなくなった人間が「幽霊」として現れる。その裏には、貧乏人のしたたかさがあった。ムングァンはチュンスクに、夫に差し入れをしてやるよう懇願するが、話しを陰で聞いていた三人が足を滑らせて転がり出てくる。ムングァンはキム一家がパク一家を騙していたことを悟り、形成は逆転。一家の写った動画をパク社長に送るぞと脅す。この動画はまるで「北朝鮮のミサイル」だという冗談がまたきいている。

そのとき、雨でキャンプが台無しになったパク一家が帰ってくる。スキをついてムングァン夫妻を地下室に閉じ込めたキム一家は大急ぎでリビングを片付け、チュンスクを残してテーブルの下に隠れる。このあたりのサスペンス具合も見事である。ちなみに、パク夫人がチュンスクに頼んだのは厚切りステーキ肉をつかったジャージャー麺だった。

キャンプを楽しみにしていたダソンは、庭でキャンプすると言い張る。仕方がないのでパク夫妻はリビングで寝ることに(しかも寝る前にセックスをはじめる)。二人の目の前のテーブルの下にはギテク、ギウ、ギジョンの三人が息をひそめているのだが……。

ここで、「臭い」はギテクの体臭としてまた話題に上る。パク社長が、キム運転手の臭いがするというのだ。そして、「キム運転手は度をわきまえた人間だが、匂いだけが度を超す」とこぼす。もちろんこれは、ギテク個人の体臭を越えた意味がある。そのことは、ラストシーンで明らかになる。

その頃地下室には、チュンスクに蹴飛ばされて階段で頭を打ち脳震盪を起こしたムングァンと、庭の照明の電源を使ってボーイスカウトのダソンにモールス信号を打つグンゼがいた。グンゼのモールス信号はダソンに届くが、ダソンは助けを呼ぶ前に寝てしまう。しかし、ここでも地下に潜む人間の存在に気付いたのはダソンだった。

パク一家が寝静まった隙にキム一家は邸宅を抜け出す。外はひどいどしゃ降りで、半地下の家に戻るとそこは雨水でいっぱいだった。下水はトイレから逆流し、下水管より低い部屋に吹きこんでくる。こうした描写にはリアリティがあり、実際に、ソウルの洪水では半地下の家が浸水し死者が出たらしい。結局、キム一家は(邸宅のチュンスクを除き)避難所の体育館で寝ることになる。こんな調子では将来の計画なんて立てるだけ無駄だ、計画とは無計画のことだとギテクは自嘲気味にこぼしている。

翌日、ダソンの誕生日はホームパーティーをすることに決めたパク夫人は、いかにも金持ちがやりそうなバーベキューを企画する。ソウルを大雨が襲い、キム一家を始め低地の住民が避難を強いられているときに、である。パーティーの用意をしながらも、ギテクは物憂げな表情をうかべている。周りの金持ちのほか、家庭教師のギウとギジョンも招待されてパーティーが始まる。ギジョンはすっかりパーティーの雰囲気に溶け込んでダソンのバースデーケーキを運ぶことになるが、ギウはダヘに、パーティーに自分は釣り合っているのだろうかと不安をこぼす。

ふと、ギウは地下室のことが気になる。そして山水景石を抱えて地下室に降りていくのだ。山水景石はギウの運命である。それはギウに幸運をもたらすが、同時に再び地下へ地下へと引きずり込んでゆく。地下で待ち構えていたグンゼはギウを捕まえ、山水景石で頭を殴り昏倒させる。そしてパーティー会場に乱入するとケーキを運んでいるギジョンに包丁をつきたてる。誕生日に再び現れた幽霊にダソンは泡を吹いて倒れる。それを見たパク社長は、血まみれのギジョンではなくダソンを病院に連れていこうとする。そして、娘の傷口を押さえているギテクに叫ぶのだ。

「何をしているんだ、車のキーを渡せ!」

ギテクは放心した様子でキーを投げるが、そこにもみあうチュンスクとグンゼが倒れ込む。まさに、チュンスクがバーベキューの串でグンゼを刺殺したところだった。ギジョンに駆け寄るチュンスク。このシーンは、なりふり構わぬ三人が同じ「一家」であることを視聴者に印象づけるものとなっている。そのとき、ギテクの目に、鼻をつまんでグンゼの下からキーを拾い上げるパク社長の姿が映る――。

金持ちが鼻をつまむ貧乏人の臭い。そのとき、決して度を越えないキム運転手の堪忍袋の緒が切れた。グンゼがギジョンに突きたてた包丁を、今度はギテクがパク社長に突きたてる。悲鳴があたりに響きわたる。

グンゼにかわって、今度はギテクが地下室の住人となった。意識の戻ったギウは遠くから、邸宅の照明が明滅していることに気づく。それはギテクの送る、無事を知らせるモールス信号だった。ギテクは、勉強し、金を稼ぎ、邸宅を買いとって父を地下から出すことを夢見て映画は終わる。それは、ギウ自信が半地下から這い出す計画でもあるはずだ。十分な学力がありながら大学に通えなかったギウは、まだ社会的成功を諦めない、夢を追う青年としての一面を覗かせる。

この映画で描かれているのは、上流と下流の階層の意識の違いの徹底的な対比である。パク一家は自分たちの子どもに社会的成功の才能があることを疑わない。キム一家は「ノープラン」である。パク一家は優雅で上品だが、人間の裏を見ぬくことができない。キム一家も、ムングァンとグンゼも、泥臭く黴臭いが生き延びるためにはしたたかである。パク一家にもキム一家にも、誰かを敢えて貶めようとする悪意はない。生きるために自然と身につけてきたハビトゥスの違いを丁寧に描いていったところに、この映画の白眉がある。

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